「タヌキ先生」とはセンター棟で運動、入浴を担当する初老刑務官のニックネームだ。
既に出所したサルタによると 歴代の労役達から「タヌキ」と呼ばれていたらしい。
色黒で車だん吉に似ている。
眼光鋭い
身長 約170センチ、体重は90キロほど、
突き出たお腹の柔道家体型。
とにかくデカい声。
労役で収監された当初 大声で威圧してくるタヌキ先生が怖くて苦手だった。
タヌキ先生のエピソードはいくつかある。
そのひとつを紹介すると
7月後半 外運動の時間
いつもの様に「鳥かご(ゲージ)」
(コンクリ壁で囲まれた狭く細長い独り用の運動場。床は土、天井には網、
デッキ上から刑務官達がタイマーで時間管理/監視をしている)
(30分体操しても檻の中を歩き回ってもストレッチしても良い。
この時間に爪切りをする時もある)
・・・で自由運動をしていると
隣の檻ににデッキ上からタヌキ先生が話しかけている。
隣には懲役受刑者が居るはずだ。
(懲役と労役はお互いに顔を合わせないように
必ず片方が通り過ぎるまで 休めの姿勢で壁を向く決まり。)
おいサトー(仮)しばらくやなぁ 頑張ってるか!
ありがとうございます
ところで、お前いくつになったんや?
今年で65になります。
そっかぁ。お前と会った頃は俺も現役バリバリの40代やったな!
お互いにいい歳や、体大事にな。ココに居れば何の心配も無いからな!
ありがとうございます。オヤジさんも お体大事にして下さい。
ん!
ドラマのセリフみたいだと思った。
タヌキ先生の年齢は不明だが仮に
60近いとしてお互い20年近く刑務所にいるのか…。
そう言えばここは無期、長期受刑者が7割近くいる…とサルタが言っていた。
毎日変わらない刑務所の生活を20年近く過ごすのはどんな気持ちなんだろう。
サルタの別の言葉を思い出す。
タヌキはうるせぇし、面倒くさいヤツなんだけど人間味はあると思うんスよ
30分の運動時間は終わり
整列、行進、運動靴の履き替え、人数の点検が終わり窓に鉄格子の共同房(牢屋)内でそれぞれの席に正座してタヌキ先生の指示を待つ。
うがい、手洗い後作業始めぇぇぇぇぇぇぇ!(大声)
狸先生の号令。 鉄扉が閉まり
ガチャっと施錠する音と共に
我々は再び黙々と労役作業を始めるのだった。
俺の労役生活はまだまだ続く・・・