ある金曜の夜、歓楽街の某ビル内のとある店でハイボールを飲んでいた。
まだ5月なのに少し蒸し暑い夜で喉が乾いていたのだ。
カウンター越しには若いバーテンと女性スタッフが3.4人。
バーというよりはスナックに近い。
1時間ほど飲んで 帰ろうとした時、
騒がしい声と一緒に団体客が店に入ってきた。
店員の「いらっしゃいませ」に加えて「サルタ(仮名)さんご無沙汰」の声でハッとする。
この店は以前イワシダ君(仮名)に教えてもらった店だ。
…という事はサルタ(仮名)がこの店に来ても不思議は無い。
団体客は奥にあるボックス席に案内されたのでカウンター席の俺と視線を合わせる事がなかった。
1時間で帰ろうと思ったのだが 面白そうなのでもう少しこのまま 居ることにした。
「アキ!アキ!」と1人がオラついた大声を出す。
「アキ」とはサルタの下の名前だったはずだ。
チラッと振り向いて確認する。
5人の団体客で確かにサルタがいた。
他の4人は私服なのにサルタだけ作業服姿だ。
2年ぶりに見たが、俺の記憶より肩が大きく首が太くなっている。
イワシダ君の話で彼は今、現場関係の仕事をしているらしいが
(なんの「現場」なのかは不明)
あれから2年間、相当な力仕事をこなしてきたのだろう。
昔の面影は少しあるが もう別人だ。
しばらく背中越しに会話を聞いていたが5人の中でサルタが一番格下っぽかった。
積極的に大声を出して話題を振る訳でもなく、
自分からノリ突っ込みで笑いをとる訳でもなく
静かに参加している。
友人同士の集まり。と言うより職場の先輩後輩同士の飲み会なのだろう。
長袖Tシャツ、長袖コンプレッションインナーの男達、
その中に作業着の袖を腕まくりしたサルタが笑顔でいる。
元気そうで何より。
俺は会計を済ませると静かに店をでた。
5月なのに蒸し暑い夜だった。