柄波精機(仮称、以下ガラパ)に勤める男性工員は皆、多能工になる様に求められる。
特に俺と若ギバ氏の担当は比較的暇な(特定の品種のみ処理する)工程なので
どうしてもそうなる。
勤務して 1ヶ月が過ぎた頃、
朝礼でAザワ班長から
「ネコタさん 明日から4班の作業も覚えて下さい
若ギバさん、作業指導を引き続きお願いします。」と告げられた。
午後の休憩時 普段スマホばかり見ている同班の月ヤマさん(50代)が
はじめてスマホから目を離して
「明日から色々大変になるね。気をつけてね」と謎の忠告をしてくれた。
月ヤマさんは ガラパに勤めてまだ半年。
俺に良く声をかけてくれる数少ない先輩だ。
「難しい作業ですか?」
俺の質問に月ヤマさんは
「…人がね…」と言葉を濁した。
作業終了15分前、若ギバ氏と一緒にPヤマ(敬称略)に
「明日から宜しくお願いします」と挨拶した。
4班にはいわゆる「班長」はいない(後述するけど)
笑顔で「はい宜しくね」と言う彼女の仕草に違和感は感じなかったが
若ギバ氏は退社時タイムカード棚の前で(自分のノートで)口元を隠し
「・・そろそろ大変になるので気をつけて下さい」と
囁くように早口でつぶやいた後 早足で駐車場に去っていった。
何をどう気をつけるのか知りたかったが
タイムカード棚の前なので
他の女工さん達の手前聞くわけにもいかず、
不安を抱えたままに俺も駐車場に向かった。
「さようなら・・・」「さようなら・・・」
女工さん同士が挨拶をして退社してていく。
「お疲れ様」ではなく「また明日」でもなく「さよなうら」
前から気になっていたのだが
何で「さようなら・・・」なのだろう。
普通「お疲れ様!」とか「じゃ、また明日!」だよな。
ただの地域性だろうか。
はるか遠くで「夕焼け小焼け」の音楽がかすかに聞こえる・・・。
(※外で遊んでいる子供達に帰宅を促す為 小学校で音楽をかける)
www.youtube.com寂しい音楽のせいでますます不安な気持ちになった。
車に乗り込みNHKラジオを聞きながら帰路に着いた。
ラジオはこの町特有のノイズ混じりだったが少し気分転換にはなった。
続く