金曜日の17:00、柄波精機(仮称)の終業チャイムが鳴る。
10分ほど前から終業に向けての段取りを各自しているので
チャイム音で皆仕事を終えてタイムカード棚に向かって一斉に歩き出す。
班長と
同僚の若ギバ氏、Pヤマ(敬称略)、R子に「お疲れ様でした」と一声かけてから俺もタイムカード棚に向かう。
班長と若ギバ氏は挨拶を返してくれるが後の二人は何も言わない。無言だ。
まあ慣れたけど。
金曜日は帰宅せず、工場から直接高速に乗ってS市に帰る事にしている。
「着替え」と「ちょっとした荷物」は既に車に積んであるし、
ガソリンは昨夜 満タンにしておいた。
万全だ。
俺をガラパに紹介してくれた某社長からお借りしている古い軽自動車で高速道路を走るのは毎回毎回、
ちょっとした冒険だけど 怖くなかった。
直ぐにでも この町から離れたかった。
途中SAのトイレで作業服から私服に着替え、SA内の食堂で夕食をとる。
車中で熱いコーヒーを飲む。
やっと気持ちが落ち着いてきた。
この瞬間、この開放感の為だけに過酷な1週間を耐えてきたのだ。
少し仮眠した後1時間半ほど運転し、
S市内のコインランドリーで作業服を洗濯。
S駅東口にある夜間料金が安い駐車場に車を置き、
歓楽街にあるスーパー銭湯で入浴。
入浴後、歓楽街にあるバーに行き
店員と雑談しながらハイボールを4.5杯飲む。
ほろ酔いで歓楽街にほど近い場所にあるネカフェに泊まる
(6Hパック週末料金¥1.580)。
ネカフェで寝るときエアコンの乾燥した空気で俺は喉を痛めやすい。
なので「ぬれマスク」は俺の必需品。
必ず事前に準備しておく。
柄波町の借家はエリア圏外なので車で7.8分走ったドラッグストアの駐車場まで行かないとWiMAXの電波が入らない。
いつぞや駐車場でネットをしているところを女工が見ていて
Pヤマに伝えたらしく、仕事中に
「何でいつまでも駐車場にいたの?」
「誰かを待っていたの?」
と しつこく散策してきた事があった。
まるで監視社会だ。
柄波町(仮称)は新しい店も、
人も滅多に町外から入ってこない。
道路も建物も何も変わらない。
町は何年も「変化」がない。
コンビニのイートイン以外、外食先も選べない。
もちろん居酒屋なども無い…。
町に娯楽は一切ない。
あるとすれば多分、田植え後に親戚が集まって宴会をしたり、
夏の集落毎に行う盆踊りとか、
稲刈り後にする収穫祭とかそんな所だろう。
…知らんけど。
「天気」と「家族」と「健康」そして
「人のウワサ」以外に話題の無い町(工場)なのだ。
そして「人のウワサ」だけが女工たちの唯一の娯楽なのだ。
だから 人の目を気にする事なく
ほろ酔いになれて、好きなだけ
ネットが出来る今夜は楽しくて仕方がない。
店のパソコンでコミュニティFMを聴きながら、www.beachfm.co.jp
動画を見て、友人とLINEなどして
束の間の至福と開放感に浸る金曜の夜…
いつしか俺は静かな眠りにつくのであった。
続く