某県某郡 柄波町にある
柄波精機(仮称、以下ガラパ)の工場に勤め始めて3ヶ月目になった。
午後の休憩時間に詰め所を見渡す。
俺によく声をかけてくれていた月ヤマさんの姿は無い。
Aザワ班長の説明によると
「更年期障害が悪化して勤務不可の診断が出た為 退職した」との事。
・・・月ヤマさんは同僚であるガラパの男性社員に随分と「ヤられていた」。
作業ミスが原因で「この馬鹿野郎!」と罵声怒号を何度も食らっていた。
一昨日 倉庫から「ああー!!」と月ヤマさんの叫ぶような大声を聞いた。
50代後半でおとなしい性格の月ヤマさんは既に
メンタル面で限界だったのだろう。
作業ミスは今回で2回目だと言う。
どの程度のミスなのか分からないが
まだ2回と言うべきか、
もう2回と言うべきか、
「ココは3回ミスると もう居られませんから」
以前、若ギバ氏から注意された。
なんの事を言っているのか分からなかったが
3回ミスると社内村八分的な扱いになって会社に居られなくなる
・・との事だそうだ。なんだそりゃ?と思っていたが、
新人の俺がミスりそうになると隣で作業を見ているPヤマも若ギバ氏もR子もそれぞれ
「前に説明したよね!」
「私、前に言いましたけれど!」
「一回教えてますけど!」と大声で同じ事を言う。
つまり 俺がミスる=教育者である彼らのミスになるので 予め予防線を張っているのだ。
他所からきた俺が鈍感なのかもしれないが
洛陽の町で仕事を、職を失う事をみんな異常に恐れている。
こんなだから新入はもちろん中途社員が入ってきても定着しない。
月ヤマさんはもう居ない。
でも それで良かったのだと思う。
少なくとも月ヤマさんは自分の意思で辞めて転職する事を「自分で選んだ」のだ。
次の職場が仮に見つかって肉体的に辛くても精神的には今よりはずっとマシだろう。
少し広くなった詰め所で水筒の紅茶をひと口飲んで 俺は自分の作業に戻った。