「配食(夕飯)」の前に
「お茶ぁ〜配当ぅ〜」の号令がかかる。
ヤカンを食器洗い桶に入れてお茶もらって下さい
サルタの指示で(廊下側の窓)鉄格子の前に立つ。
模範囚の掃夫がお茶が入ったバケツを乗せた台車を押してやってくる。
柄杓でお茶を巨大なステンレスのジョウゴの中に入れ鉄格子の間から
ヤカンにアツアツのお茶を注ぐ。
我々は動物園で檻の外からエサを与えられている動物っ…てかまるで家畜みたいだ…
何だかすごく萎えてしまった。
PE製の角ランチ皿と黄色い丼。
白米と麦の飯。味噌汁。
鉄格子の下から渡される。
献立は忘れてしまったけれど とにかく美味かった。
食事と片付け合わせて30分。
食べたら直ぐに食器を洗う。(コメの茶碗は洗わないでそのまま出す)
残飯は飯の茶碗にまとめて出す。
「カラ下げ〜」号令がかかり再び掃夫が食器を回収して回る。
サルタが話しかけてくる。
初日お疲れさまでした。消灯まで自由時間です
老人も話し出す。
あの・・みなさんお名前は?私はカメイと申します
ネコタです。よろしくお願いいたします
・・・と俺。
イワシダです。
と検察から一緒に来た青年が初めて口をひらいた。
皆さんは何ヤらかしたんですか?自分は無車検で90日です。
俺は飲酒(2回目)で100日っす
私は練乳を1個レジを通し忘れただけで(万引)40日
↑※どうやら「マエ(前科)」があったらしい。
自分も道交法違反で140日っす。でも、あと6日で出所なんですよ
その日の夜は消灯時間まで 各自の具体的な罪状やら
警察での取り調べ、留置場、検察の検事の話やらで大いに盛り上がった。
彼らの語る留置場の話は非常に興味深かった。
※俺以外の3人は全員留置場を経験していた。
あまりにも盛り上がって いっぱい笑ったので
見回りの若い刑務官に
2室うるさい!自分らがどうしてココに居るか考えろよッ!
と厳しい口調で注意されて俺もイワシダも凹んでしまった。
(↑とにかく厳しかったギョロ先生)
でもサルタの
アイツ前から超ムカつくんですよ。因みに彼「ギョロ」って呼ばれてるんですよ
話でまた笑ってしまった。
年齢も住んでた所も違うけど
まるで 「男子校の修学旅行の夜」みたいだ と思った。
やがて悲しげなハワイアン調の音楽が流れ消灯時間となった。消灯は21時。
寝れない。まだ21時で酒も飲んでいないし寝れる訳がない。
窓の外は医務棟と樹木、高い塀、遠くにマンションの灯りが見える。
この辺りの土地勘はあるので建物の位置は大体把握した。
夜の夜中眠れず冷静になる。
あんなに悩んで悩んで 大騒ぎしたり、パニックを起こした時など離れて暮らしたいと思ってた家族。
でも必死で一緒に暮らしてきた家族。
大丈夫だろうか?不自由してないだろうか?
こんなんで すまないな…布団を被って声を押し殺してほんの少しだけ泣いた。
しばらくすると隣で寝ているサルタが「ヒイぃ-」と小さく奇声を発した。寝言?
天井の蛍光管カバーがキシッキシッと音を出す。
建物外ではウシガエルが鳴いている。
建物の中では廊下からコツーン、コツーンと
何かを当てる様な謎の音が遠くで響いている。
消灯から起床まで起き上がってもいけない。
時間が過ぎるのが遅すぎる。寝れるワケがない。
初日の夜は静かに長く過ぎていった。
続く↓