「ちょっとお願いがあるんですよ…」
2011年の11月、
携帯越しのヤマガタ君(仮名)の口調は重い。
ヤマガタ君は(株)ムニャムニャ(仮名)時代の同僚だ。
震災をキッカケに退職し、実家が経営する会社で働いているが、
先日お父さんが体調不良で倒れたばかりだ。
「詳細は会ってから話します」
お互いの都合の良い日時だけ確認して彼は電話を切った。
数日後 俺はヤマガタ君が運転する高級ミニバン助手席の本革シートに座っていた。
「入院中のオヤジから内々に頼み事をされちゃって 俺1人では手に負えないのでネコさんに電話したんスよ」
真っ白な高級ミニバンはS市 A区の閑静な住宅街を右折左折しながら 低速で進む。
やがて一軒の古いアパートの前に路上駐車した。
「ここっすね。まぁ 見てください」
狭い階段を2人で上がり アパートの一室に入る。
pcデスクに古いパソコン、小型テレビ、一人用のリクライニングチェア、
古い部屋だが不思議と生活感が無いのは台所、風呂場を使用した形跡がないことと、
トイレが綺麗な為だろうか?
古い建材の匂いはするが
「人の家にありがちな独特な生活臭」は無い。
「コレなんですよ。問題はっ!」
ヤマガタ君が押入れの襖を開く、開く。
クローゼットも隣の部屋に繋がる襖も開く。
押入れの本来お布団を置くべき場所、隣部屋、物置スペースに
大量のAV(アダルトビデオ)。ギッシリだ。
半透明なプラスチックケースに収納してあり、
ケースは3段、4段に重ねてある。
50本60本のレベルじゃない。
パッと見、目測だが200本以上ある.。
VHSテープが大半だが、
DVDは勿論のこと
パソコンの美少女(アダルト)ゲームまである。
パッケージを手にとって動作環境を見るとWindows95/98とある。
「この部屋は オヤジ専用の秘密の小部屋として使っていたらしいです。俺も今回初めて知りました。会社の名義で契約していたんですけど。」
オヤジさん専用の
個室ビデオとしてこの部屋を契約したのか。
まさにプライベート金太郎/花太郎。
「オヤジも今回の入院で色々と危機を感じたらしく(中略)
…兎に角、母さんにバレないウチにエロ関係 全て処分するように特命が出た訳ですよ。」
「初めてこの部屋に入った時は 驚きました。
因みに、オナホとラブドールは無かったです。
一線は保っててくれた様で流石にホッとしました。」
「何か欲しい物あったらあげますよ」
ありがたい申し出だが
俺は「エロ」に関しては何より鮮度を優先する男だ。
残念ながら「おかず」とするには鮮度がかなり落ちている。(90年代モノだし)
ま、それはそれとして この本数…
「コレでも俺がプラごみとして随分処分したんですよw」
「処分費用+手間賃はウチの会社が出します」
「今月中に片付けたいんですよ」
「俺も手伝いますから!」
「…で、作業はいつにしましょう」
ヤマガタ君は話を進めてきた。
仕事の依頼だ。有り難い。
俺は既に作業の手順と段取りを考えていた。
このVHSテープの本数、どこに運ぶ?
何で運ぶ?
このままの運べるのか?
今日は一旦帰宅して翌日予定を組む事にした。
続く。