某県某郡・柄波町にある柄波精機(仮称、以下ガラパ)で働く最後の朝を迎えた。
未明から豪雨と暴風で最悪最低の朝だった。
班長には「いつも通りに働いてそのままひっそりと消たいです」とお願いしていたので
朝礼は業務連絡だけで終わった。
最後の仕事は班長の計らいなのかPヤマ達と離れて
普段と違う軽作業に配置された。
チラリとのぞき見ると今日は暇なのかPヤマもR子も 事務職員の女性と雑談している。
お互いに「Pヤマっちぃ」
「ジュンジュ-ン」と女学生みたいにキャッキャ話している。
「ちょっとお-R姫ぇ」と3ン歳のR子が呼ばれている。
30過ぎでもこの工場の中ではかなり若い方だ。
老いた女工や事務員達の娘的なポジションだ。
やがて彼女も「お局」になるのだろう。
午後の休憩中 あの青年が話しかけてくれた。
最近になってポツリポツリ会話するようになった。
彼は口数少ないが女工さん達に気に入られていて
若ギバ氏や月ヤマさんを怒鳴っていた古参とも仲が良い。
「この工場は3年前まで暇で、みんな自分で自分の仕事を探している感じだったんすよ。」
「みんな段々に自分の仕事を覚えていった感じすね-。」
「××さん、××さんと俺は同じ年に勤めだしたんすよ-」
…など色々教えてくれた。
「ネコタさん自衛隊出身ってウワサですけど本当すか?」
(↑俺は角刈りなので色々と噂になっているらしいが もちろん違う)
せっかく会話するようになったのに今日でお別れとは残念だが
元気で頑張ってほしい。
俺はニコニコ笑顔で差し障りのない会話した。
休憩後も引き続き軽作業をした。
やがて終業を知らせるチャイムが鳴る。
班長とその他に挨拶してタイムカードを打刻。
女工さん達は相変わらず
「さよなら-」「さよなら-」と
この町独自の寂しげな挨拶をしながら駐車場に去っていった。
離職するにあたっての諸説明は班長から既に聞いている。
作業服はクリーニングして後日、社員証・保険証と一緒に庶務に返却する事になっているので今日はこのまま帰っても構わない。
帰り道バックミラー越しにガラパの工場を見ながら俺も「さよなら-」と小さく呟く。
いつの間にか雨も風も止んでいて西の空に綺麗な夕焼けが見えた。
続く